散歩の効能





先を歩くアレルヤの肩が、楽しげにリズムをとっているように見える。
トレミー内での生活は、重力が弱く設定されているので、歩く、という行為をほとんど必要としない。
移動バーにつかまって、移動するのが大半だ。
だから、歩いている姿をみることは、ほとんどない。
それは、アレルヤに対してだけではなく、クルー全員に当てはまることだが。
だから、面白いものでも見るような気分で、ロックオンは、ほんの少し後を歩く。

しかし、それも、ほんのわずかな時間のこと。
空は、きれいに晴れ渡っているものの、寒さが、身にしみる。
散歩なんて、そう長く続かないだろう、そう思いアレルヤについて外へ出た。
部屋の中にいるのと、たいして変わらない格好で。
その時点で気がつけばよかったのだ。
アレルヤがそれなりの外に出る身支度を整えて、ロックオンを外へ誘ったことに。

アレルヤは、なかなか部屋に戻ろうとしない。
歩くのが、嬉しい。
そうとでもいうように、アレルヤの足取りは、はずんでいる。
何もない単なる並木道。
目的地があるわけでもなく、歩いているだけなのに。
しまいには、グローブで包んである指先まで、冷たくなる。
商売道具の指だ、大切に、ポケットにしまう。
それでも、寒さに、うんざりする。
ロックオンは、北の方の生まれだが、けして、寒さに強いというわけではない。
一概に北の方の人間が寒さに強いと思われるが、北の地方は、それだけの備えをしているから寒さに耐えられるだけだ。
軽装でいれば、当り前のように寒さは感じる。

「おい!アレルヤ。」
思わず、声をかける。
歩調を緩めて、アレルヤが、隣に並ぶ。
ミッション時とは違う穏やかな表情。
そんな時のアレルヤは、いつもは、冷たい印象すら与える切れ長の目の印象も、がらっと違う。
穏やかな大きな犬を連想させる。
「なぁにが、そんなにたのしいんだよ。」
「え?楽しくないですか、歩くのって。」
心底不思議そうな声が返ってくる。
「歩いてくだけで前に進めるじゃないですか。」
当然の理屈に、二の句が告げない。
歩けば前に進むのは当たり前だ。それ以外に、なにがあるというのだろう。

「歩いてけば、先に進めるじゃないですか、
わかりやすいから、僕は好きですね。」
「そうか?」
こんな寒空の下でもか?それは、何とか飲み込む。
「だって、わかりやすいですよ。
僕たちの介入行動なんかより、ずっと。」
アレルヤの、表情が暗くなる。
それに、ロックオンも、眉をしかめる。
思いは、同じだ。
世界が、進んでいるのかいないのかわからない状況に膿むのは、よくわかる。
そして、自分よりはるかに心優しいと思われるアレルヤが心を痛めるのも。

「でも、ロックオン。
歩いてくのと、おんなじなんだって、思うようにしてるんです。
僕たちの行動も。
ずっと、続けていけば、前に進んでるって。
そう思えたら、なんだか、やっていけそうじゃないですか。」
穏やかに、笑う。
本当に、それを信じている、そんな強さをのぞかせながらも。
「そりゃぁ、歩いてくみたいに、先も、結果も見えるわけじゃないですけどね。」

マイスターの中で、一番状況判断にたけている、そうアレルヤのことは評価していた。
ティエリアのように、妄信的な行動をとることもなく、刹那のように、無謀な行動には走らない。
そして、自分のコントロールの仕方を心得ている。
メンタルな面でも。
アレルヤという別人格を持っているせいで、そういう部分をしっかり持つ必要があるのかもしれないが。
それを考えてみても、ロックオンは、アレルヤの性格を、気に入っていた。
好ましい、とすら思う。

「なんか、アレルヤっぽくて、いいな。
それ。
そういうの、おれは好きだね。」
笑顔で、うなずいてやると、アレルヤは、困ったように、
そんなんじゃないですけどね、と、口ごもって、目線をそらす。

飲みながら、話したい。
ふと、重いうかぶ。
そして、それがとてつもない名案のように思われる。
難しいことも、何もなしで、向き合って話すだけでいい。
雑談で、かまわない。

きっと、面白いものが見れる。

多分、こいつとなら。

今までも、不思議な奴だとは、思っていた。
漠然とした興味は抱いていたものの、深入りは避けていた。
が、俄然、興味がわく。
今の会話が、何の引き金を引いたのかわからない。
心の中に何かがともる。
あたたかくて、優しい何かが。

「よし!アレルヤ。
飲むぞ!」
まるで、スメラギのような言葉が、口をつく。
語り合おう、とは、面と向かってはいわないが、心はもう固まっている。
にやりと、笑う。
まるで、悪戯を始める前の子供のように。
「え!?だって、昼ですよ、まだ。」
驚いた声と顔をして、アレルヤが、非難を口にする。
ミッションを離れているのだ、昼だろが、なんだろうが、かまわない。
ロックオンは、豪語する。
「かまわないって!こんな寒い中歩いてきたんだぞ?」
一度言い出したら、聞かない、とでも、思っているらしく、
アレルヤが譲歩案を提示する。
困り顔をすると、年よりも、幼く見える。
そんなことを発見して、おかしくなる。

「わかりました。
 じゃぁ、ロックオン、あなたは、お酒。僕は、ココアでいいです。
 ココアで、十分あったまれますし。」
「おし。んじゃ、それで、妥結!
 でも、つまんねぇよなぁ、それ。」
「え、そうですか?
 つまらなくないですよ。」

何気ない会話を、かわしながら、借りてあるフラットに足を向ける。
きっと、自分の足取りも、アレルヤと、同じぐらいに軽く、はずんでいるのを、自覚しながら、ロックオンは歩く。
些細なことに声をあげ、笑いあいながら。

歩く。
明日へと。


友情スタート。×は、なんとなくいらないかな、そこまでたどり着けなかった!!
残念。
北の方に住む人が、寒さに強いというのは、迷信!とおもうのです。だって、重装備してるから冬に耐えられるだけなんです。←いいたいのが、それか。自分。

[09年1月 12日]