あなたがいるから

ロックオンは、目を覚ます。
天井がやけに遠い。
ベットが、やけに、かたい。
かたいを通り越して、体が、痛む。
そこまで、ぼんやりとかんがえる。
窓からは、明るい日光が差し込んでいる。
逆にそれが、時間間隔をわからなくさせる。
まぶたを落としたのも、昼だった気がする。
昨日は、帰投してすぐにベッドに戻る努力を放棄してしまったことを、ようやく思い出す。
床から、体を起こした体には疲労がまとわりついている。
それでも、シャワーでも浴びれば回復は、可能だろう。
碧の瞳を、一度、瞬かせて、起き上がる。

立ち上がってみれば、刹那、ティエリアも、先だってのロックオンと同じように、眠っている。
横顔しか見えないティエリアの顔は、眠っているというのに、疲労の色が強くにじんでいる。
体を器用に、丸めこんで。
きゃしゃな体が、さらに細く見える。

そして、部屋の隅に背を預け、膝を立てて眠る刹那。
顔を、うつむけているので、寝顔までは判別できない。
それでも、その姿が、まだ、少年らしい線の細さともろさがはっきりと見て取れる。

ああ、毛布でもかけてやらなけりゃな・・・・。
風邪ひいちまう。

そう思いながらも、どこか、ロックオンの心は、沈む。

どうして、こんなロックオンから見れば、幼いともとれるような子供たちが、ガンダムに乗ってまで、世界の変革を目指すのか。
自らも、マイスターであるのに、明確な答えは見つかっていない。
迷いというフィルターを通してしまうから、二人の存在が、ひどく不確かな頼りないものに感じられてしまうのだ。

強さ、という面では、刹那やティエリア年少コンビのほうが、己の信念を貫く覚悟も、信じきる力も、
ロックオンを凌駕している。
迷いなど、微塵もない。
各々、言い切るだろう。それが、二人にとっては、当たり前のことなのだ、と。
無意識のうちに、人差し指を口元に、運ぶ。
手袋をしているのをいいことに、その端を、わずかに噛んで、それに気づいてあわてて離す。
癖、のようなものだ。
皮の不愉快な味が、口の中に残る。
それに、顔をしかめる。
それから、気を取り直すように、仕切りなおしだ!そう決めて、リビングを離れる。
ベッドルームに行けば、毛布程度は、人数分ぐらいあるはずだ。

そっと、足音を殺して、ドアをあけるのにも、細心の注意を払う。
少しでも、寝かせておいてやりたい。
「」
毛布の山が、喋る。
声で、アレルヤだとわかって、表情を緩める。
持ってくるにしても、明らかに持ちすぎの感がある。
それにくすりと、声を漏らす。
それに、アレルヤが、意味もわからず笑い返す気配が伝わってくる。
「ああ。 おまえも、体大丈夫か?」
「ええ、僕は。」
毛布を半分受け持ってやると、アレルヤがようやく、顔をのぞかせる。
その顔を、さりげなくうかがえば、疲れの影が、かすかにのぞくものの、痛々しいというほどのものではない。
おそらく、自分もこの程度の顔はしているだろうな、ロックオンは、そう思う。

ドアを、そぉッとあける。
まだ、二人は、先ほどの恰好と変わりはない。
ゆっくりと、アレルヤは、刹那に。
ロックオンは、ティエリアに毛布をかけてやる。
毛布をかけてやると、ティエリアは、小さな声を、漏らす。
何かの小動物のような声。
普段と落ちがいな声音だ、まるで、何かを探して泣いているような。
かけられた毛布を握って、それに、体を隠してしまおうとするようなそぶりすら見せる。
相当なストレスを被っている証拠だ。
今まで、こんな姿を見せたことないのに。
その姿が、まるで、泣き疲れてしまった子供のように思えて、膝を床につけて、小さく丸まった背なかを数回撫ぜる。
ほんわりと、手袋越しにティエリアの熱が伝わる。
「大丈夫だから。
 今は、ゆっくり寝ていいからな。」
安心して。今だけは、
口の中で、呟く。

刹那に、毛布をかけてやっていたアレルヤも、困ったような視線をロックオンに向ける。

「刹那、こんなに、痩せてて、大丈夫なんですか?」
アレルヤは、声を殺しつつも、先ほど、ロックオンが、感じたことを素直に言葉にする。
起きているときは、そんなに感じないことでも、無防備な姿になれば、はっきりと、細さや、幼さが際立つ。
どうしようもないことなのだろうけれど。

「僕たちのほうが、体が大きいから、ダメージが少ないんでしょうかね?」
「ああ。まぁ、配置場所の関係もあるかもしれないし。そうかもしんないし、わかんないな・・・・。
ま、なにはともあれ、ご苦労さんだったな。」
「ええ、ロックオンも。」
何気ない風を装った会話を交わす。
昨日は、そんな会話を交わす余裕すらもなかった。
二人は、無意識のうちに、ソファの足元に座りこんで、一枚の毛布を分け合って、肩を寄せる。
ロックオンが、ことり、とアレルヤの肩に頭を落とす。
汗のにおい。それでも、不愉快ではない。
まるで、生きている証拠にすら感じられる。
柔らかなくせ毛が、アレルヤの頬をくすぐる。
ロックオンは、視線は、刹那とティエリアに向けたまま。
いいあぐねたように、言葉を探す。

悲しい。
痛ましい。
二人が、あまりに幼くて。
そのことを目の前に突き付けられたようで。
大人を自認するロックオンに衝撃を与えるのには十分すぎる。
普段子供だ子供だ、とからかってはみても、二人の行動をみてしまえば、まだ少年であるということを失念しがちになる。

子供。
庇護され、未来を約束され、育っていく。
それが理想で。
そうでなくても、未来を描くすべぐらいは、もってよいはずなのに。
二人は、明日をも知らない。「今」しか持たない。
そして、こんなにも、疲弊して、眠る。
世界を敵に回して戦い続けてー。

意識の外に追い出してしまいたかった刹那とティエリアの姿。
その背後に生まれ続けている似た状況下の多数の少年少女。
そんなものが、むりやり想起させられる。
そして、泣き叫んだ遠い日の記憶。
自分たちの信念が、引き起こした結果と、帰結。
それを、無視することはできない。
ロックオンは、唇の内側を強く、噛む。

咎は、すべてが終わった後に受ける。
そう覚悟していても、心が悲鳴を上げる。
ふとした瞬間に。
傷は、塞がらない。薄皮が張っても、また、破れて、何度も、新しい血を流す。

守って、やりたい。
例え、叶わなくても。
どんな矛盾をはらんでいようとも、思う気持ちだけは、本物だ。
だれにも否定させない。

涙線が、不自然に熱を持つ。

それを察したかのようなタイミングで、アレルヤの手が、ロックオンの視界を、ゆっくりと覆う。
「眠りましょう、ロックオン。僕たちだって、まだ、相当疲れてるはずですよ。」
静かな声が落ちて、どうしようもない考えに至ろうとする思考を制止する。
あくまでも、ロックオンを高ぶらせない、傷つけない方法を選んでみせる。
アレルヤは、励ましもしなければ、怒りもしない。
ただ、そばにいます。
それだけを、ロックオンに伝える。
今だって、そうだ。

まぶたの上に、のせられた大きな掌をきつくならない程度の力で、どける。
そして、自分の指でからめ捕る。

「・・・・あんがと、な。」
心の震えを、止めてくれて。
ロックオンの視線は、指先に落ちる。
アレルヤは、純粋だ。
それが、躊躇いを生む。


見つめた指先の不自然さに、はたと気づいて、一度、指を離す。
流れるような動きで、左手のグローブだけを脱ぐ。
そして、もう一度指をつなぎなおす。
さっきよりも、強く。
寄せられるアレルヤの気遣いが、ひどく優しい。
アレルヤが、こつりと、頭をぶつけて、気にしていないですよ、と目で告げる。
そして、頬に触れるだけのキス。
それに、ロックオンも瞳をたわませる。

―守られていると、思えるから。
  だから、他の誰かを、守りたいと思える、のかも、な・・・・

かすかな、安堵といってもいいようなものが、胸に落ちる。
なんの解決策を得たわけでも、何もないのに。
どれだけ重いものを抱えようとも、たった一言が、温かい。
そんな瞬間があるから、歩いて行ける。

それを、得られないとき、思いは、歪んで、淀み、形を変えていく。
憎しみや、怒り。
絶望へと。

「おやすみなさい、ロックオン。
 僕は、今の貴方が好きです。」
眠りに溶ける前のぼんやりとした声で、アレルヤが言う。
傾きかけた体をあわてて引き寄せる。
きれいな漆黒の瞳も、今は、まぶたの下だ。
「−今、いうか、それ。」
「ええ。言っておきたくなりました、今のあなたを見ていたら。」
「ん。なんて、返せばいいんだ、それは?」
返事は帰ってこない。
ロックオンは、唇を湿らせる。
告げる言葉のために。
アレルヤの意識には、届かないのをわかっているから、口にする。

望み、と、決意を。






アレロク。と思うのですが、いかがでしょうか?センチメンタル兄貴が、個人的には好みです。         アレルヤに、甘えちまえ!みたいな。が、糖度0、あ、あれ・・・!?

[09.9.3]