dearest 2 

ひどく体が重い。
遺された二人分のカップ。
ベットの上に体を投げ出して、それを、見やる。

たたき割ってしまいたい。
そんな衝動にも駆られる。

アレルヤの顔が、思い浮かぶ。
つい先刻の表情が、目の奥にこびりついている。
どうしようもなく気づ付いた顔、部屋を出るころには、何の表情も浮かべていなかった。
単なる空白が、彼を包んでいた。
笑った顔、安らいだ表情が上手に思い描けない。

「あ〜あ。」
そんな声が、漏れる。

両目を、あわてて、右腕で隠す。
これ以上目を、見開いていたら、泣く。
瞬間的に思った。
この部屋は、優しい思い出で満ちている。
涙が、こぼれる。
腕の下を、暖かい涙が伝う。


アレルヤと、自分の関係は、歪だった。

初めて、触れたぬくもりに、アレルヤは、すがりついた。
そして、それを、愛だと誤解した。
愛している、アレルヤが、自分を抱きながら、そういったときに、初めて知った。
最初は、熱にうかされた状況下での言葉だろう、そう思った。
だから、受け流せた。
ロックオン自身与えられる熱量に翻弄されていたのだから。
しかし、アレルヤは、何度も、繰り返した。
言葉が若干変わっても、
アレルヤが、口にするのは、
「愛している、愛しい」というただ、それだけ。
一度だけ、目をあけて、その時のアレルヤの表情を見たことがあった。
ただ、自分だけに注がれる愛しげな視線。
真摯で、嘘も偽りもない。
それを知った。
熱になど浮かされていない。
それは、ある種の恐怖すらロックオンに与えた。
そして、自分が、ひどくアレルヤを裏切っていることを気づかせた。
ロックオンは、泣いた。声を上げて。
それを、アレルヤは、どう取ったのだろう。
歓びの声だと、とったのだろうか。―わからない。


自分は、そんな人間じゃない。
自己否定ではない、客観的に自分を見つめることができるからの答えだ。

アレルヤに、そこまで思われる理由なんて何一つない。
アレルヤを受け入れる柔らかい体も、心も、持ち合わせていない。
何も生み出すこともできない。

自分の醜さを知るから、人一倍、人のことを気にかける。
それは、偽りだ。
見せかけの優しさで、弱い自分を守るだけのずるい人間。
人並み以上に、人の心を読めるから、他者に不愉快感を与えず、うまくたちふるまう。
それが、自分の特質であることをロックオンは知っている。
良い悪いを問われれば、ロックオン自身も、それは、悪いことだとは分かっている。
だがー。
彼が生きる上では必要なことだ。

体を開くのだって、アレルヤが、それを望むから。
自分が、快楽を得たいからー。
それだけの、理由しかない。
それ以上の意味はない。

最初の始まりが、すがられた手を、振りほどく気力がないこと、
自分の寂しさが、そうさせているのを、ロックオンは、知っている。
どれほど言葉を取り繕おうとも。

自分の持っているものは、すべてアレルヤに与えてやりたい、そう思ったのも事実だけれど、実際そんなことはできなかった。
安らぎを与えてやることすらできなかった。
アレルヤは、ロックオンから与えられるものを、愛だと誤解したようだったが、
幼少時に、無条件に愛されたことのあるロックオンにはわかっていた。
こんな打算に満ちたものが、愛と、呼べるものではないことを。
アレルヤは、そんな事を図ることすらできない環境で生きてきた。
それは、ひどく悲しいことだ。
そんな彼に、愛の意味を、履き違えさせてしまった。
愛を知らない、という状況よりも、はるかに悪い。
教えてしまったのは、自分だ。

気づきながらも、本心をさらけ出さず、アレルヤの望むふるまいを続けた。
わかりあったふりをして、体を、重ねて。
大人の余裕で、彼を、けむにまいてー。

そんな関係は、間違っている。

なのに、ロックオン自身は、どうしようもなく、アレルヤに惹かれていった。
否定することもかなわないほど。
離したくない。喪えない。
寄せられる信頼に、笑顔。
ぬくもり。
欲しいと思った瞬間に、アレルヤから与えられる優しさ。
人知れぬ憂いを、察して、アレルヤは、ロックオンのそばに寄り添ってくれていた。
必要以上に、干渉せず、距離をとって。
ロックオンが快いとおもう距離以上は、近寄ってこなかった。
そのくせ、ロックオンが、すがりつきたいほどの弱さに襲われた時は、きっちりと感じ取って、距離を埋めた。
同じ思いを返せるなら、それはそれで許されるかもしれない。
なのに、自分は、肝心なところで逃げを打つ。

恐れが、生まれる。
人に望まれ、求められることに。
執着を生む。
生への固執。
咎は受ける、そう決めているのに。
回避できるなら、回避したい。
生きていたい、共に生きていきたい。
余計な望みを抱く。
そして、それは、ロックオンの本懐を遂げるのにもーCBの理念に、まったく必要ではない。
却って邪魔になる。
個人の感情など。

アレルヤの心を、裏切ったまま。
そのくせ、自分は、アレルヤから与えられるものすべてを享受する。

間違っている。
こんなのは。
ずるい、醜い、汚い、そんな思いがロックオンの中に生まれていった。
それは、ひどく苦いものだった。最初の、自分がアレルヤに何かを与える。
そう思っていた時には、決して生まれなかった思いだ。
優位にー保護者としての立ち位置、そんなものを気取っていたロックオンは、もう、いない。
何度結論を、自分に優しいものに変えようとしても、たどりつく結論がそれだと悟った。
だから、別れを切り出すしかなかった。

アレルヤの将来を、曇らせないために。
今以上の傷を、彼に残さないように。

「ち・・・っくしょ。
 わっかんねぇ。」
嗚咽が、漏れる。
情けない、そんなことを考える余裕もない。
流れる涙は、ぬぐわない。
望んで、自分が出した結論。
なのに、こんなにも、打ちのめされるのか。
「ロックオン、ナイテル。ナイテル。」
枕もとの台座に置いておいたはろが、突然声を上げる。
「泣いて、ない・・・。
 ないて、なんかない、大丈夫、だ、から、」
声が、涙に埋もれる。その合間に、呼吸をする。
まるで、そんなロックオンを気遣うように、ハロの目が、光る。
「ロックオン、ナカナイ。ナカナイ。」
その声すら、感傷的にロックオンの耳には、届く。
「あんがと、な、ハロ。
 明日っからは、もう、こんなことぜってぇないから。」
「ナイ!ナイ!モウ ナカナイ ロックオン ツヨイ ナカナイ ナカナイ」
その声に、力なくうなずく。

そうなれるように、明日は、どうか、いつもどおりに笑えますようにー。









		

ロックオンサイド。
報われない感じです。ドロドロさせたいと思いつつ、力量不足。反省。
          

[09年2月22日]