スメラギの自室に、呼び出される。 甘いアルコールのにおいに、酔う。 勧められるままに、ロックオンは、盃をあおる。 「あんたたち、ばかよね。」 あんたたち、が自分と誰を指すのかは十分自覚している。 「ああ、そうかもしんないな。」 自嘲が混じる。 頬が熱い。 スメラギのペースにのまれかかっている。 どこまで、この戦術予報士は、読んでいるのだろう。 昨日の今日の出来事まで読めるのだろうか。 とろりと溶けかけた思考のまま思う。 そして、自分の昨日とったアレルヤへの態度を、反芻する。 考えよう、と思った瞬間に、制止の声がかかる。 「だめよ。 お酒飲むときに、、難しいこと考えちゃ!」 「ん?なぁんも、考えてねぇよ。」 嘘じゃない。 考えても、思考がまとまらない。 同じところで、何度もつまずく。つまづいて、何度も、最初から繰り返す。 何も変わらない。 同じ痛みが、胸を焼くだけで。 そして、それを、ため息でなだめる、ただ、それだけだ。 そんなのは、考えているとは言えないのだ、きっと。 「今日、呼んだのはね、近々、アレルヤと地上に降りてもらうことになるわ。」 グラスを置く音が、やけに耳に響く。 顔ががかすかに歪むのを感じて、あわてて、アルコールをあおる。 「そう、ね。 わかってて、いってるわ。 私。」 表情を、ほんの少し陰らせる。 アルコールのよいは感じられない。微かに頬は、赤くなっているが、理性的な目をしている。 二人っきりで、アルコールに浸りながらの会話。 一方的に決めてあるのなら、ミーティングで、決定を報告すればいい、それをしない意図は、明白だ。 ―拒否してもいいー スメラギの態度が、それを示す。 そして、それを許す、とも。言わなくても、通じる。 どう、答える。 鼓動が、早まる。 選択を恐れて。 どう答えても、結果は同じだ。 おそかれ、早かれ、アレルヤとは、向き合わなければならない。 ただ、それが、もっと、ずっと先であるように。祈る気持ちは、心にある。 どうしたって傷つけるなら、向き合いたくない。 それが、ロックオンなりの優しさだ。 機体性能の上でなら、アレルヤティエリアがバディを組んでもいいはずだ。 もしくは、刹那と、自分。 精神面の動揺が、行動に影響を与えないとは言えない。 今回は、フォローに回る役割はできない。 自分自身感情をコントロールしきれるとは言い難いのだから。 いくら、マイスターとの訓練を積み、実践を重ねてきても、その可能性は否定できない。 ならばー。 そんなことも、胸をよぎる。 アルコールが、喉を焼く。その感覚すら今は、優しくすら感じる。 弱い言葉をせき止めてくれるから。 スメラギは、ただ杯を重ねる。次を促そうともしない。 もう、それきり興味を失ったとでも言うように。 唇を、湿らせる。 瞳が、冷たい色を宿す。 冷え冷えとした海の色。 他の人には、さらせなくても、そんな表情も、スメラギになら許される。 スメラギは、そんなことに、動じない。 ロックオンの中に、何も、理想めいたものをかぶせないからだ。 ただ、ありのままを、当り前のように受け止める。 それは、スメラギの戦術予報士としての特性だ。おそらく、彼女自身の気質とも、深くかかわるのだろうが。 「わかった。」 「いいの?」 ひきかえすなら、いまよ、でもいうような挑発的な笑みを、スメラギの唇が形作る。 だから、ロックオンも、不敵な笑みを返す。 「ただ、条件が一つ。」 「何?」 一呼吸置く。 こんなことを口にしていいのか、一瞬の戸惑い。 「あいつがーアレルヤが、拒否したら、勘弁してやってくれ。」 「そう、ね。 それぐらいのお願いなら、聞いてあげてもいいわ。」 はい!じゃ、飲む。問題解決、ね。目が、悪戯げな色を帯びる。 先刻と全く違う笑顔で、ワインを、グラスに注がれる。 少なめに注いで、グラスを何回も重ねるロックオンとしては、信じられないほどに、なみなみと。 ワインの雰囲気も、なにもあったものではない。 「飲みなさい! いやのことも、なぁんも、かんも、忘れちゃえばいいのよ。」 わざと声を明るく張り上げる。 それも、多分アルコールのせい。 自分をごまかす。 そんなに、センチメンタルな性格ではない。 ただ、静かに事実を見守ればいい、ただ、それだけだ。 余計なものはいらない。 それが、スメラギの取る態度だ。 スメラギは、心の中で嘆息していた。 アレルヤに、同じことを提起した時、アレルヤも、一言、わかりました、とだけ、告げた。 「ただ、ロックオンが、僕と一緒にいたくないといったら、その時は、外させてください。」 とも静かな言葉を選んだ。 二人とも、口にした言葉は、ほぼ、同じだった。 なのに、浮かんだ表情は、ベクトルが、逆だった。 二人の胸の中に、何がよぎったのか、そこまでは、読み取れなかったし、読み取る気もなかった。 厳しい表情を浮かべたロックオン。 泣きそうな笑みを刻んだアレルヤ。 二人が望む道を選べばいい。 これだから、子供たちは困るー。 スメラギは、ほわほわと、揺れ出した頭で思う。 そして、それが、少しうらやましくもあり、眩しくもなる。 喪った恋の形を、思い出す。 今回のミッションは、無理に二人を付け合わせるために組んだものではない。 けれど、絶好の機会にはなりえる。 その程度の打算は、許される。 機体性能上は、年少二人に任せても、かまわない。 だが、搭乗者の性格上、状況によっては、地上での静観を余儀なくされる状況に置くのは、少しためらわれる。 二人とも、若さのせいか、ほんの少し、血の気が多すぎる。 刹那は、わかりやすいが、それに負けず劣らず、ティエリアも、猪突猛進型だ。 こう思ったら、こうだ!それしかない。 その指針が、ヴェーダであるから、安心といえば安心だが、 今回は、ヴェーダのプランに、スメラギのアレンジが加わっている。 それを、不服としているのは、見ていればわかる。 「甘過ぎる!!」 そう、声を荒げるのだから。 その点、年長二人は、冷静だ。 ただ、状況を動かすのを待つだけの余裕と、状況判断能力にたけている。 たとえ、自分たちが、どんな状況下にあろうとも、彼らならしっかりミッションをこなす。 どんなに心を揺らす状況がそこにあったとしても。 それは、信用できる。 この不器用な子供たちが、お互いの道を、違えないように。 そう祈るしかない。 スメラギは、ひとさし指を、気づかれないように噛む。 せめて、わずかな時間でも、幸せを。 きっと、自分たちの優位性はそう長くは続かない。 予感がある。 それを、ごまかすように、スメラギは、盃を重ねる。 夜が、静かに更けていっても、こうこうと照らされたこの部屋の宴は、終わらないー
スメラギ&ロックオン
00って、女性キャラが結構好きです。すぱぁんとして。スメラギロックオンも、好きです。(順不同)
[09年3月10日]