つたえたいこと


「ロックオン。本当に、ほっといていいの?」
アレルヤは、コーヒーカップを手に、落ちつかなげに室内をうろつく。
ただでさえ簡易基地のブリーフィングルームの中が、なおさらせまく思える。
ロックオンは、ため息をつく。
「座れ」と、目で促すと、アレルヤもそれに従う。
そこで、自分のうろたえ気味なのを自覚して、アレルヤは、苦笑を浮かべる。
了解。
と、うなずいてやる。
アレルヤとなら、この程度のアイコンタクトは、通じる。

「だって、あれ、そうとうやられてると思うんだけど。」
「大丈夫だって、あいつも、それぐらいわかってて、いってんだろ。」

先刻のミッションで、ティエリアは、負傷した。
彼の弁によれば、ふがいないマイスターによって、ミッション失敗寸前で、自分は、単身攻撃を余儀なくされた。
そうだ。
あくまで、本人によれば、だ。
ロックオンは、承服しかねた。
確かに、ロックオン、アレルヤに数分のロスタイムを起こしたものの、その回復時間を考えても、プランとの相違は、数分以内。十分に、合格圏内だ。
ミッション失敗というのには、程遠い。
わざわざ、危険な選択肢を独断で、選ぶような状況ではなかった。
確かに、ティエリアの取った行動で、介入行動は、目的を達せられた。
だが、そのせいで、機体の損傷、そして、ティエリア自身の負傷、という結果だ。

ヴェーダのプランに従う。

至上命題のように唱え、自分の負傷はさておきにする姿勢は間違えている。

命あってのものだ、そんな積極的な説教を吐く元気もない。
ただ、自身の身の安全を省みずに、ミッションタイムや、計画に従う必要性があったとは、言い難い。
時と、場合。
それが、ずれている。
それを、改めてただす必要性までは、感じない。
ただ、すべて自分でできる。
そんなおごりがティエリアからは、感じられる。
それは、誤りだ。
それは、最低限知らなければいけないことだ。

「やっぱり、あの怪我じゃ、歩くのだって、大変だよ。」
アレルヤは、当り前の結論だ、というように立ち上がる。

アレルヤの言うことは、おそらく真実だ。
それは、先ほどの様子からもうかがい知れる。
顔色が、ひどく悪かった。
さりげなく、胸のあたりをかばっていたところを見れば、肋骨の数本やられているかもしれない。
冷静にロックオンは計算していた。



「大丈夫?けが、してるよね。」
おそるおそる、腕に触れたアレルヤの手は、振り払われた。
乱暴に。
かすかに、息があがっている。
「かまうな。平気だ。」
それでも、そう言ってのける。
口元には、冷たい笑顔が浮かんでいるのを、ロックオンは、見た。
かすかな嫌悪感が浮かぶ。
自分を気遣っているアレルヤのことを、さげすんでいるような態度に思わず、
ロックオンのほうが、口を出してしまいそうだった。
手近にあった木に背を預けて、成り行きを見守る。
気がつかずに、腕を組んで、若干苦い表情が浮かぶのも、仕方のないことだった。
気の毒なのは、けがを負ったティエリアより、アレルヤだ。
「早く、戻って、手当てをした方がいい。」
アレルヤは、心底心配そうな眼をして、ティエリアに声をかけるのだが、
まったく無視された格好だ。
口下手なアレルヤには、説得の手立てもない。
それでも、一生懸命、ティエリアに声をかけるのだが、届いていないのは、遠目に見ていても明白だ。
そんな様子をみると、アレルヤの性根が優しいのを再認識させられる。
「触れるなと言っている!それぐらい、わからないのか。」
ティエリアが、激昂した声を上げる。
アレルヤのティエリアに触れかけた腕が、ぱたりと下ろされるのを、確認した。
呆然、というように動きを止まる。
さすがに、目に余って、介入を試みる。


「ティエリア、行くぞ。
手当だけでも、しとけ。もう、言わないからな。
おい、アレルヤも、戻るぞ!」
はろが、
「イクゾ イクゾ」
復唱しながら、ロックオンの周りをパタパタと飛ぶ。
それでも、この場にとどまろうとするアレルヤを目で制し、ロックオンは、基地に足を向ける。
その視線の鋭さに、アレルヤも、そのあとに従う。
足音は、ロックオンとアレルヤのものだけ。
ティエリアは、その場を頑として動かなかったようだ。
少し、距離を離してから、隣のアレルヤに声をかける。
「気にすんなって。ああいうやつだから。」
「ええ、でも・・・。」
そのあとの言葉をなんとなく読んで、答える。
「わかってるよ。」と。
アレルヤも、何かに納得したように、ようやくうなずく。

アレルヤと言葉を交わしながらも、ロックオンは、腹を立てていた。
ティエリアは、学ばなければならない。
ひとりでは、何もできないことを。
奢っている自分に、気がつかなければならない。
そして、人からの手助けを受けることも、受け入れなければならない。
そして、そこから始まる人との関係を、認めなければならないのだ。

もう、言葉で言っても伝わらないなら、経験で知るしかない。
けがを負って、弱っているこの状態では、酷かもしれないが、やもをえない。
これは、ある意味では、いい機会ともいえる。
あの様子では、自分の振りはらったアレルヤの手を借りるしかなくなる。
適度なところで、もう一度助け船を出してやればいい。
そこで、気がつけばいい。
ティエリアは、自分の今までの行動を少し考える必要がある、とロックオンは思う。
それは、最低限必要なことだ。

なんで、こんな計算してるんだ?
ロックオンは、そんな自分に、少し驚く。
世話焼きも、ここまでくれば、重症だよ、と、ひとりごちる。

自分が、ティエリアに惹かれていることに気付きもしないまま。


兄貴って、どうやって、ティエリアを教育したんだろう
本編じゃ、いっきにデレてたのがある意味不思議。 妄想のつけいいる隙間ありまくり(爆)

[09年1月 12日]