Be with you 
クリスマス?
疑問形で聞かれて、どう答えようものかロックオンは一瞬だけ考える。
ティエリアは、久しぶりに出てきたストリートの変貌したさまに思わず体をこわばらせる。
ここ数カ月、地上でのデータ収集が主だった任務で
あまり外にも出ず解析にいそしんでいたティエリアにしてみればどこか変なところに迷い込んだ気にもなる。
思わずロックオンのそばにひたりと体を寄せる。
はたから見れば幸せそうなカップルの仲間入り状態だ。ロックオンも、どさくさにまぎれて手を繋ぐ。
もちろん指と指をからめた恋人繋ぎだ。


「キリストの生まれた日を、みんなで祝う日なんだけど。」
な!そう言って笑う。
きらめく電飾。飾られたリボンや、かわいらしいトゥリー。そして、いつもより幸せそうな人の笑顔。
笑顔の先には、同じようにうれしげな表情を浮かべた人物。 自分たちもその中の一員だ。
今日だけは。
ロックオンは、隣に向けて微笑みかける。
「それが、どうしたっていうんですか!
 どうして、お祭り状態になるんです?」
カップルの女のほうに、体当たりされかけたティエリアがかろうじて、それを避けて、半ばキレ気味に眉を吊り上げる。
これだけ人が多ければ、いたしかたないことだが、それを許せとティエリアに言うのは無理がある。
「まぁ、な〜。」
それはわかる。本来の意義を失っているとは思う。神の生誕を祈るなら家で静かに過ごせばいい。
だからと言ってこの風潮を卑下するわけでも、嘆くわけでもない。
これでも、幼少時は父や母に連れられ教会にかよった身ではあるのだけれど。
敬虔な信者とは言い難い。
ただ、無意味に、それでも生き生きと時を過ごすのを見るのも悪くないと思う。
人生を謳歌して。一時の歓びを得る
。 そのためにクリスマスという一日が利用されるのも、ありではないかと思う。


大人ぶった顔をしているけれど、ロックオン自身も心が浮き立つ。
遠い日の思い出が、胸をほんのりと温める。 もう、サンタも何もいない。けれど、今は、自分がそうなってやれるのを知っている。
与える喜びを教えてくれたのは、今は戸惑いの表情を隠しきれない少年。その存在に、いつも救われる。


「一番大切な人と一緒にいて、ずっと幸せでいられますように。っていう日でもあるんだよ。多分な。」
耳元でささやく。
それがロックオンの解釈だ。
だから、人々は寄り添うのだ。今日一日はそれが許される。
思う。
だから、人は少し素直になれるんだと。
今日だけは、ロックオンもかんがえる。
そして、祈る。
いるのかいないのかわからない神に。
普段は己に禁じているたぐいのこともすべて。


ティエリアと、いつまでも、一緒にいられますように。
もしも、別れる日が来るとしても、それがまだまだ先でありますように。
そして、本当の別れが訪れてもそれが幸せなものでありますように。

耳たぶが、寒さでほんのり赤く染まっているのが見えて微笑ましくなる。
まるで、イチゴキャンディみたいで。
そしてほんの少しいたずらしたくなる。かじってみたい、そう思ってそこであわてて思考を止める。
これじゃ、変態だよ。
ロックオンは、自分で突っ込むしかない。表情に表れないのは幸いなことだ。
一瞬だけ、ティエリアの目が見開かれてそれから笑みの形に口元が動く。
そんな瞬間を見ることがひどくうれしい。
「・・・・そういうことなら、このばか騒ぎも許せそうな気もする。
 じゃぁ、家に帰りましょう。ロックオン。」
いきなり立ち止まって。
「帰りたい。」
そう小首をかしげるような調子で訴えられては仕方ない。
表情も先ほどから比べると穏やかで、クリスマスを受け入れた。そんな雰囲気なのに。
「え?今許せるっていったばっかりじゃ、ねぇの?」
「ええ。許せるとは言いましたが、僕がそうしたいわけではありません。勘違いしないでください。」
ぴしゃりと釘が刺される。
このまま少し街を歩いてお気に入りの小さなカフェでゆっくりして。
町をうろついてティエリアの気にとまったものがあれば、クリスマスプレゼントに贈って。
ささやかだけれど幸せなクリスマス。 クリスマスの習慣を、二人でなぞりたかった。 習慣を知らなかったというのは盲点だけれど、
できないことではない!おおざっぱに計画をたてかけていた身としては正直おしくなる。
来年の今頃地上にいられるとは限らないのに。そう思うと口から出てくるのは若干の力の抜けた声。
「行きましょ、ニール。」
それでも、リラックスした時にしか呼ばない呼び方で呼ぶ。
「なぁ、どうしたの?」
小声。
雑踏の中で誰も聞き耳を立てているわけないのに声をひそめて
「あなたと、二人でいたい。
 ずっと一緒にいられますように、って祈るなら。」
少しも淀みのない口調。耳に心地よい温度を保った優しい響きだ。
その首元で紫紺の髪がゆるりとゆれる。
「貴方だけ。
祈るなら、二人でがいい。
人のいないところで静かにしていたい。
二人でいたい。
だめ、ですか?」
まっすぐに見つめてくる深紅の瞳。
碧い瞳も穏やかにたわむ。
「そうだなそれもありだな。
 かえろ。二人でお祝いしような。」
頭を撫ぜる。照れ隠しに。
それにあげられる軽い抗議の声と、こぼれる小さな笑い声。
―最高のプレゼントを、ありがとう。
つぶやく。


メリークリスマス!
すべての人たちに幸せが降り注ぎますように。
せめて、今日だけは。

          

[09年12月24日]