ロックオンが、ひらひらと、その掌を揺らす。 こっちこい、と。 その隣の人物を見て、アレルヤは、納得のため息を漏らす。 ティエリア・アーデ。 2人の間の緩衝材。 この二人は、見ているほうがはらはらする。 アレルヤが、場を取り持つために、同席することも多い。 気位の高い猫のような少年。 その瞳が、静かに、すぅっと細くなったときの圧迫感は、言い知れない。 だが。 その瞬間のティエリアは、確かに、きれいなのだ。 見る者の心を強く惹きつける。 「なぁ、もうちょっと、うまそうに食えば?」 「栄養補給のためだ。それ以上でも、以下でもない。」 若干険悪な空気だ。 ロックオンは、しきりに、ティエリアをかまいたがっている。 が、当のかまわれるほうは、我関知せず。 しゃりしゃり。 そんな規則正しい音を立てながら、サラダを口に運んでいる。 仏頂面で。 「黙って、食べてください。」 「会話してたほうが、消化吸収がいいって言うぞ?」 とってつけたような理屈を、ロックオンは口にする。歌うような口調で。 「なら、いいです。 黙って食べて取れる分の栄養素で僕は十分です。 お気づかいなく。」 口元を皮肉にゆがめての最後の一撃。 それは、笑み、とは呼べなくもないが、目が本気なのだから、正直怖い。 「な。ひでぇよなぁ、アレルヤ。」 ほんの少ししょげた顔で、ロックオンが話を振ってくる。 「えぇ、まぁ・・・。」 曖昧な返事を返す。 持ってきたトレーをテーブルに下ろす。それにロックオンが、ほっとした表情すら浮かべる。まるで、救世主が現れた、とでもいうように。 その視線には、困る。 何ができるというわけではない。 皿の上のポテトを、きれいなフォークづかいで、口に運ぶのを見ながら、アレルヤは、どうしたらいいものか、思案する。 もし、アレルヤに好き勝手が許されるなら、ロックオンを告白にけしかけて、白黒はっきりさせてしまいたくなる。 その程度には、見ていてじれったい。 主に、ロックオンが。 それに、気づいてしまうのも、恋愛にうるさいクリスティナと、無駄なことに気を使ってしまう自分ぐらいなのだろうが…。 その程度に、トレミー内部は、鈍い。マイスターは、まったくもっての問題外だ。 この問題の中心にあるべき人物―ティエリアですら。 まったくティエリアには理解されていないのが、哀れを誘う。 だから、ときどきロックオンのやけ酒に、付き合ってしまうのだ。 今だって、邪険にされながらも、穏やかな表情で、ティエリアを見つめている。 ロックオンの目線から見れば、ティエリアは、どう映るんだろう。 それに関して、少し好奇心がそそられる。 多分、アレルヤの目に映っているのは、全くの別人に違いない。 恋は、盲目? ミッション以外を切り捨てるような生き方は、誤っている。 感じさせてやりたい。 知らせてやりたい。 降ってくる冷たい態度や、言葉に、心が撚れないとは、云い切れないのは、まだ、ロックオンの鍛錬の足りないところかもしれない。 だから、人のいいアレルヤをそばによんでしまう。 穏やかなアレルヤは、場の空気を敏感に読み取って、フォローに回るすべを持っている。 刹那だと、こうはいかない。 気まずさが倍増するだけだ。 すまないなぁ、と心底思いつつも、アレルヤには、多々救われる。 アレルヤは、切れ長の瞳を瞬かせる。 ひょうひょうとしたロックオンが、ティエリアをかまうときは、戸惑い気味でもあり、それでも、楽しそうなのが、おかしい。 そのくせ、緑色の瞳が、子供のような輝きを秘めている。 ちょっかいをかけてみても、結局は、見つめているだけなのだからー。 年上の人物に対する評価ではないけれど、かわいいひと、そんなことが思い浮かぶ。 それが、アレルヤの表情に出たのか、ロックオンが、不思議そうな表情を、一瞬だけ浮かべる。 ろくな会話も紡げないうちに、目的を達成したティエリアは、 ほっとしたような溜息と、 「では、ごゆっくり。」 そんなことば、を残し、席を離れる。 残されるのは、ミッション失敗のロックオンと、これまた同じく救援行動に失敗したアレルヤ。 「すまん、あんなちょうしじゃ、まいっちまうよな、全く。」 すまんすまん、と、繰り返す口調は、常より幼く聞こえる。 自分が、情けないというのは自覚しているようだ。 目の前の男の目から見ても、美形に属すると思われる人物からもたらされる言葉だとは、思えない。 「いいえ、いいですよ。」 アレルヤは、答える。そして、ほんの少しの悪戯心を起こす。 「いいです。 僕は、あなたが好きですから。」 ドラマなんかを思い起こしながら、心を、こめて、言ってみる。 緑色の瞳が、大きく見開かれて、落ち着け、おちつけ、とでもいうように、ゆっくりと瞬くのを眺める。 テーブルの上で、指を組む。 そして、真正面から、ロックオンの視線をとらえる。 対するロックオンは、といえば、思考停止中だ。 白い顔に、朱がのぼっている。 あまりのわかりやすさに、アレルヤは、いたずら成功!心の中で手をたたく。 表情には、表わさないように気をつけつつ。 穏やかに言葉をつなげる。 「好きですよ、ロックオン。」 そこで、もう一度言葉を切る。 「は!?」 とっぴょうしもない声。一体どこから出てるんだろう、というような声。 ロックオンも、さすがに我慢できなかった。 状況が読めなさすぎる。 それから、あわてたように視線をそらす。 そして、思案中の表情に変わる。 真剣な色が、瞳に浮かぶ。 おそらく思考停止は、3分ほど。 戦闘中だったら確実なアウトだ。 アレルヤは、そこまで、カウントする。 潮時だ。 これ以上やっては、面白くない。どっちにとっても。 アレルヤだって、真剣な答えをもらっても困る。 答えるほうも、それ以上に苦しい立場に陥るのは目に見えている。 「嘘だけど、本当です。」 そこで、ようやくロックオンが安心のため息を漏らし、その言葉の意図に、怪訝な表情を浮かべる。 そこまでいって、ほんの少し声を落とす。 「ティエリアのこと気になっても、見つめているだけで、 それじゃいけない!!と、焦って、ちょっかいかけても、なかなかうまくいかないんで困っているあなたが、好きですよ。ロックオン。」 がったん!! ロックオンが、椅子を後ろに倒すほどあわてて、立ち上がる。 本当だ。 この部分の言葉にウソはない。 人が人に、一生懸命に何かを伝えようとする真剣さは、いつだって、美しい。 それを、見ている人間も、心が暖かくなる。 アレルヤは、その感覚が好きだ。 それは、好き、という感情に少しだけ似ている。 広い意味でいえば、アレルヤは、ロックオンが好きだ。 刹那に、ティエリア、他のクルーももちろんだけれど。 それぞれのいやなところを知っていても、それさえ含んで、アレルヤは、好きだと思っている。 ―ここが、僕の居場所だ。 最近、実感としてそれがつかめてきている。 云う気はないけれど、 多分、その実感を始めて与えてくれたのは、目の前にいるこの困惑中のマイスターだ。 「それ、誰にも言うんじゃねぇぞ!?」 「わかってますって。」 思わず、苦笑。 「・・・・ああ、っつた、く。 なんてとこ、見られてんだ、おれ。 おまえも、変なとこで、お気づかいの人だよな、結局やってらんねぇのっておれだけって話か?」 そう言いながらも、ロックオンは、愉快そうに笑う。 言葉が、弾む。 本人も、あまり隠す気はないのだろう。 まっすぐな気持ちなのだから。 「そんなことないですよ。あなたには、負けますよ。 ティエリアに気遣うだけじゃなくて、僕や、刹那にも優しくしてくれますし、 他のクルーにもそうですからね。」 ああ、こんな会話にティエリアが混じってくれれば、いいのに。 そうしたら、もっと楽しいだろう。 人と人の輪が、連鎖していけばいい。 せめて、この狭いトレミーの中でぐらい許されてもいい。 それぐらい、望んでもぜいたくではない、きっと。 アレルヤは、笑い声をあげながらも思う。 いつか、ロックオンの思いがかないますように、 ―できれば、早いうちに、と。
ぐだぐだへたれ兄貴が、かわいいというか、正直好物。
見てるだけしかできないのは、アレルヤかも。まぁ、ちょっかい掛けても、からっきし伝わらないのは、
見ているだけと同じ・・・?
人の恋路が、気になって、ちょっとやきもきしそう。
兄貴は、見てるだけ、であきたらず、かまって、玉砕。
でも、気づいたら懐かれてる、とか、そんなのも、いいなぁ〜
[09年5月 9日]