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「なんか、安心するよな。
あいつの目つき。」
半分ベットに沈み込みつつ相棒のハロを、ふわふわと宙にほおり投げ、
抱きとめてを、繰り返しながらライル・ディランディは、そういいながら、苦笑いをこぼす。
訓練時間まではまだ少し間がある。つかの間の休息だ。
「ティエリア。ティエリア。」
ハロが、答える。
そうそう、と目だけで肯定する。
自分を恨む、もしくは、憎む。そんな目つきを隠そうともしない。
そこまで、あからさまなリアクションをされれば、こちらも、敵愾心に似たようなものが生まれる。
俺は、兄さんじゃない。
兄さんの踏襲なんてしようと思わない、思えない。
他のクルーの前では、意図的に兄がとったであろう行動をなぞって見せることもある。
そうすれば、空気が和らぐ時もある。そして、どこか安心したような笑顔。
全くの他人よりも、親しみを感じてくれるのは実証済みだ。
ただあのティエリアの前では、そんな気持ちには全くならない。
あの鋭い値踏みするような強い視線。
自分が、自分であることを強く認識する。
ニールとは違う。
彼が、そう小さな失望に似た表情を浮かべるから。それは、言葉ではなく態度に表れる。
そして、それは、ひどくうれしいこと。
自分と兄が、けして混同されていないことのあかしだから。
それを、知っているからより、ライルが自分らしくいられる。そんな皮肉。
それが、ティエリアにとってはひどく残酷なことだとは思うけれど、
同情は、生まれない。
―あいつには、俺の姿は、映っていないのだから。
それは、ある意味お互い様だ。
「−おい!いつまで、そんなだらだらとしている。」
「ノックぐらいして入ってこいよ。」
「それは、しっかりロックぐらいかけてからいえ。
あいていた。コードを押すまでもなく開いた。それを、非難されても困る。」
紫紺の髪を持つ青年が、その美貌に不釣り合いな不機嫌な声を上げる。
「わかってるって。」
唇の端を吊り上げる。ティエリアのつりあがった眉といい勝負だ。
「おむかえか?」
「逃げられる前に捕獲だ。」
「は・・・!?おれ、そんな信頼ねぇのかよ?」
「もう、5分前だ。では、行くぞ。」
え・・・・・。五分前にいなかったから、部屋にまで来るとは。
軽く眩暈を覚える。この型どおりの生真面目振りがおかしい。笑いをこらえるのに、思わずほおが膨らみかけて、
あわてて手で押さえる。
ベットから、立ち上がる。
肯定でも、否定でもいい。
まず、自分という人間を
認識させてやる。
反骨精神と、若干の敵愾心そんなものが、生まれる。
そのためには、まずは、機体の熟知、そんなとこから第一歩。
今のままでは、あまりに情けない。
が、機体操作も慣れないとひどくわずらわしいし、めんどくさい。
その壁と、鬼教官の叱責を思うと、若干気が重い。
そう思いつつも、愉快だった。
体の奥で何かがはじける。
何かを始めるときの新しい空気。そして、予感。
カタロンからの指令を思わず、忘れてしまいそうなほどの。