空の色は 青です。
空は、幼稚園児が書いた絵みたいに青一色。
穏やかな放課後。
10代目が、班の学習会があるということで今日は、俺と、山本だけでの帰り道。
普段は、10代目を挟んでの下校。
それが、二人だけだと妙に距離がつかみにくい。
野球馬鹿は、驚くぐらいのひとなっこいの距離で歩く。
へぇ。
こいつの距離間のとり方ってこんなもんなのか、そう思いつつ、俺は距離を置く。
必要以上に近寄られたくない。
足を出す速さを変えてみたり、歩幅を変えてみたり。
なのに、距離関係は変わらない。
それに、イラつく。
なのにこいつときたら、何が楽しいかへらへらと笑っていて、俺の眉間のしわにも全く気がついてない。
快適距離がちがうっつうの。

「おい、もっと、離れて歩けってぇの。」
「別にいいじゃん、ぶつかってないし。」
「うっさい!黙れ。」
「え、黙ってちゃ一緒に帰る意味ある?」
それは、ないだろう。
喋らないで帰るのに意味がないんだったら、俺とこいつが一緒に帰る意味はそもそもとしてない。
「ひとりで、帰れば?」
喋る気ねぇし。案にそういう。
きょとん、とした顔。腑にまだ落ちてないみたいな。
こういうときの顔が、実は面白いと思う。
「え?じゃ、つまんないって。ひとりじゃ、つまんないし。」
そう言って、笑う。
がつんと、俺の頭を小突いてじゃれついてくる。肩に腕なんかまわして。
慌てて振りほどこうとすると、なおさらうれしそうに笑う。
犬がじゃれついてきているみたいだ。
「だってよ、俺獄寺のこと好きだし。」
は!?思わず動きが止まる。振り払うのを忘れたせいで、体制的には山本の腕の中だ。
制服で、それはない。抱きつかれてるなんてありえない。しかも、男二人で。
いや、それ以前になんのセリフだ、それ!?なんだ、その面白くもない洒落は。ジョークか?
思考停止とはこのことだ。
「ほんとだって。大好き。」
耳元でささやかれて、体温が急上昇する。隠し持っているダイナマイトに火がつくんじゃないかと思うぐらい。
や、それよりも、爆発する寸前のダイナマイトの気持ちがわかった気がする。
心臓が、うるさい。
「だから、好きだって言ってんの。」
深呼吸。なんなんだ、この言葉。低く告げられた言葉はやけに真実味をおびていてぞくっとするには十分すぎる。
色気すら感じるような声音だ。
「・・・・・わかった。わかったから.
とりあえず、ここは、道路だ、公衆の面前だ、わかるか!?離れろ!!速やかに、離れろ!!」
声のテンポはどう聞いても、慌てているとしか思えない。
「わかったって。」
そう言って、手を離す。
思わず、腰から滑り落ちたい気分だ。
いや、なかったことにして今からでも、校舎に引きかえしたいほどだ。距離を確実に取る。
腕を前に突き出して、おもいっきり牽制態勢だ。
まっすぐに俺を見つめている瞳は、きらきらしていてガラス玉みたいだ。
いつか、試合の時に見せた色合いと同じだ。
「今のは、本気。
 もう一回言わせてもらうけど、獄寺のことが好き。
 まじに。だから、これは、告白ってことになんの。」
「信じねぇ。信じない。熱さに、脳みそがわいたか!?」
「湧いてないって、こんないい天気に。」
「いや、狂ったか!?野球中毒か?病院行くか?や、行け。これ、命令。」
俺としては、真剣に言う。心配も含めて。
「あ〜!ばかみたい。いや、これおれどうすればいいんだ?」
頭を抱えて、オーバーリアクション。
俺の方がどうしよう、だ。男に告白されて、大真面目だとその張本人は言うけれど、信じられるわけがない。
「いや、信じられないから。無理。」
無理、信じらんねぇと繰り返す俺に向かっての宣言。
 「いいよ、信じてくれるまで何回でも言うから。
  いつか、信じさせる!それまで、待ってろ!!」
ホームラン予告ともとれる言葉。
そういう顔は、やけにすがすがしい。
今日当てられて答えられなくて恥ずかしかった!そんなレベルの残念さも交じってはいない。
闘志に燃える、とでも言うのか!?
本人いわく言ってすっきりってか!?俺は、そもそもどうしたらいいんだ?
答えも何にも云ってないのに。
・・・や、答えも何も言ってないも認めていないんだから、これが告白だなんてことも。
「あ〜、叫んでやろうかな。
 公開告白とか!?」
それを聞いて、思わず殴りかかる。
「って、何すんだよ!?」
「こんのくそばか!野球馬鹿が、本物ののばかに進化したのか!?ふざけんな。」
そういいつつも、本気で怒る気にもならない。
繰り出したキックも、すんでのところでよけられる。軽いステップで。
後に、笑顔を残して。嬉しそうな、楽しそうな心躍るような顔して、駆け出していく。
何をしでかすかわからない!!慌てて俺も走りだす。
しばらく、こんな日々が続くことになるなんて思いもせずに。