最期の呼吸で
視界が、白く染まる。

痛みは、遠い。
一枚、薄い皮を隔てた向こう側のようだ。

「獄寺君!!」

10代目の声。
ああ、無事だったんだ。
安堵に口元を、綻ばせる。ひどく、酸素が薄い気がする。
変に唇がわなないた。

「獄寺君!」
悲鳴に近い声。芳しくないんだな、と悟る。
痛みがないのがおかしいし、体が、うまく動かない。
まずった。
わらえねぇな、心の中でごちる。それでも、10代目が無事なら。
右腕としての役目は、完遂だ。

そうなってしまえば仕方ない。

10代目が、うまく動かなくなった俺の体を、抱きかかえる。
その上質な白いシャツに、どす黒い染みが広がるのが見えた。
俺の、血。もう、赤くもない。
ただ、どす黒い。
「大丈夫だから、頑張って!!」
10代目は、しきりにその言葉を繰り返す。
まるで、縋るような弱さを秘めた声に、胸が絞られる。
大丈夫というかわりに、口元を緩める。

この命を捧げて。
ボンゴレのために。それ以上に、10代目のために。
それで、満足だ。幸せだ。

体を、震えが走る。
抱えてきた誇り、走り続けたことへの自負。
全ての思いが俺の中で交差する。

―そして、俺のひとかけらもそいつの中には残せなかった男。
その笑顔が、胸をよぎる。

全ての生は、十代目、ファミリーのために。
それは、本当のこと。

それでも。
許されるなら、最後の瞬間だけは、あいつを。
あいつだけのことを、想う。
届かなくても、許されなくても。
―あの、野球バカに。
伝えたかったことを。

最期の一呼吸で
あいつの名前を呼ぶ。
幸せであるように、そう祈って。