適当に透明な世界


正月は、紅白を見るものらしい。
紅白、というのは男女が紅組と白組に分かれて歌を競い合う正月恒例の番組らしい。
その年はやった歌は、それなりに分かる。
演歌、だとか、その昔親世代にはやったような歌は、俺にはわからない。
フローリングの床に転がっている山本は、それなりに面白そうにテレビを見ている。
それを見ているのが今の俺の現状だ。
「な、全部わかんのかよ、それ?」
俺は、もちろん、裏番組の超常番組のほうが見たくてたまらない。
いつもなら、たいしてテレビに執着しないこいつが今日はこれが見たい!と、強く主張したから、テレビはそれなわけで。
「んー。わかんねぇけど、まぁ、いっかって。
 年越しは、これじゃないと。」
そういって、にっこり笑った。
体にしみ込んでるから、そういって。
小さいころから、剛と一緒に見ていたらしい。
親父の膝の上にいたころだから、何年前からだろうなぁなんてほんの少し考え込む。
「ふぅ〜ん。」
大あくびをする。
時計は、いつも寝る時間より早い時間を指している。
たいして興味のない番組が流れて、部屋はあったかくて、眠気が襲ってくる。
ソファの上で、とろりとろりと眠りに落ちていく。それに抵抗する気もなく、それに任せる。


「な、この衣裳すごくねぇ!?」
振り向くと、獄寺は穏やかな顔で眠っている。
神経を張っていないときの獄寺は、ひどく幼い顔をして眠る。
あ〜あ。
一緒に、初めての年越しなのにな。
ほんの一瞬さびしくなる。一年が終わって、新しい一年が始まって。
お雑煮食って、初詣に行って、おみくじ引いて。
もっといえば、初日の出だって見に行きたい。
少なくとも、「あけましておめでとう」を言うのは、一番最初。
笑い合うのも、一番最初。
それぐらいは、許してほしかったな。ささやかな希望。
口に出したら怒るから、さりげなく家に泊まって実行を狙っていたけど、ほんの少しの肩透かし。
普段だったら、寝る時間じゃねぇじゃん!?
それは、ないよな。
軽くため息。
それでも、気持ち良さそうな寝息を立てているのを邪魔する気にもならない。
それどころか、あったかい気持ちになって、仕方ないななんて赦しちゃうのは相当やられてる証拠。
だって、去年の今頃だったら確実にこんな顔なんて見せてくれるわけない。
どころか、肩が触れたぐらいでふぅふぅと毛を逆立てて獄寺が勝手に怒っていたような状況だ。
それを考えれば今の状況は、不思議ともいえるぐらい。
今日だって、明らかに裏番組を見たい気配を漂わせながらも、俺の希望をのんでくれた。
そして、文句も言わず一緒に見てくれていた。
途中で、適度にまぜっかえしの言葉をかけてきて、俺との会話を楽しんでた。・・・まぁ、途中で寝ちゃったけど。
まだ、テレビ画面はゆく年くる年までたどり着いていない。


何となく携帯の電源を切る。多分、新年明けたらすぐつなとか、野球部の連中からメールが来そうな気がする。
一番最初のおめでとうをいうのは、やっぱり獄寺と。
メールでも、他の誰かから新年の始まりを受けちゃいけない、何となくそんな気がして。
柄にもないけど、さ。
一年の始まりは、一番大事な人と始めたい、それぐらい贅沢じゃない。
すまん、ツナ・・・・。そう思いながら、電源の切れた携帯を床に置く。
テレビの電源も切る。


起こすのがかわいそうだから、陽が昇って朝になってからかな。
よっこいしょ。
ほんの少しよろけるけど、獄寺を抱きかかえて、隣の部屋のベッドに運ぶ。
抱きかかえると、小さな声を漏らして俺の胸に頬を寄せる。
かわいくて、たまらず、その頬にキスに触れるだけのキスをする。
起しちゃかわいそうだから。そぉっと、ベットに下ろして毛布や何かをかけてやる。
もぞもぞと体のおさまり場所を探す様子が小動物を思わせてかわいい。
本人に言ったらはったおされるの確定だろうけど。
穏やかな寝息。消灯ライトだけをつけて除夜の鐘を待つ。

来年は、何があるんだろうな、なんて思う。
今日みたいな穏やかな一日があるんなら、なんて素敵な世界なんだろう。
完全に100点満点じゃないけど。

A HAPPY NEW YEAR

		
〜一応、新年。あけましておめでとうございます!題名は、某アーティストさんの曲より。
 すごく素敵なフレーズだと思うのです。