気がつくと、ベットで眠っていた。
紅白を見てて・・・・。
ソファでそのまま寝てしまったはず。だけど、ここにいるということは、山本が運んでくれたんだろう。
俺を運んだと思しき山本は、俺の体に腕を巻きつけて眠っている。
背中があったかい。
その腕を振り払うのはもったいなくて、ぎゅっと俺もその腕に手をからめて、頬を寄せてみる。
・・・・絶対山本が起きてたらこんなことできない。
らしくなさに、頬が熱くなる。
「・・・・好き、だぜ。」
言ってみる。
練習だ、練習。ときどき、山本が、
「俺、獄寺からも、なんか言われてみたい!」
っていうから。
言葉を換えて、何回も。目で訴えてみたり、もっと、直接耳元で囁かれたり。
それでも、山本は無理やり口にさせるほどひどい奴ではない。
「言えないのもわかってる。獄寺のかわいいとこだけど、でも。
言ってほしいな、いつかは。そういうこと。」
そう言われた時は、ぐっときた。
そういった山本の顔がひどく、さびしそうに見えて、思わず自分を恥じてしまった。
それでも、俺は自尊心やら、その他いろいろな葛藤だったりでその言葉を口にできたためしがない。


「好き」
そのたった二つの音を口にできたら、山本はどれだけ嬉しそうな顔するんだろう。
見てみたい。
簡単にできそうで、今までずっとできていないこと。


本人に聞かれていないとはいえあまりに恥ずかしいことを口にしたせいか、くしゃみが飛び出る。
飲み込もうとした瞬間、時すでに遅し。
くしゅん、と間の抜けた音。
もぞり、と山本が動く。
「ぅぅ〜・・・」
と、低いうなり声をもらしてむくり、と起き上がる。
「ん〜・・・・。おはよう。」
「お、おう・・・・。」
先ほどの一人告白のせいでほんの少し動揺気味だ。心拍数がほんの少し早い。
「あけましておめでとう!今年も、よろしく!」
極上の笑顔で晴れやかに言う山本の顔を見て、ほっとする。
ちゅつ、と隙を見てキスを奪われるのも気にしない。
「・・・・おう。今年も、よろしくな。」
ぐりぐりと頭を撫ぜられるのはさすがに振り払うけれど。
え〜、と不満げな顔をするのは無視。
「獄寺〜、ひどいじゃん〜。先寝ちゃうし、初日の出も見に行けなかったし、除夜の鐘もきけなかったし。」
それは、反省するしかない。
悪いとは思うけど、眠気に負けちゃったものは後悔しても仕方ない
。や、無理して起きようとしなかった俺が悪かったのかもしれない。
ああ、そういうことをしたかったんだって今頃になってようやくわかる。
文化の違いで片付けてしまうのは、さびしすぎる。
言ってくれればよかったのに、そのしょげぶりに、ほんの少し心が痛む。
やけにはしゃいでたのはそういうわけか。
山本と違って俺には日本の風習が根付いていないからイマイチわからなかったけれど、
あいつが子供のころから慣れ親しんだイベントなんだろう。
言えばいいのに。っていうか、いってほしかった。それが、本音だ。
仕方ないっていうふりをして、俺は山本のすることに付き合う。
あくまでも、軽く抵抗してみるのは振りだ。認めている。


だいたい、俺はちょっとおかしい。
こいつがしたいんだったら一緒にしたいな。なんてバカみたいに思うのだ。
俺と一緒にいて、山本が嬉しそうにしているのを見るのが嬉しい。
おかしい。山本がうれしそうなら俺も嬉しいなんて。
おかしい。山本と一緒だったら俺がうれしいって。
何回ぶつぶつ心の中でつぶやいたのかわからない。


「わりぃ、じゃ、来年な!」
ふにゃり。
そんな感じで山本の顔が変わる。嬉しそうに。
その黒い瞳をキラキラさせて「わ、すげぇ。まぢ嬉しいかも。」
そういって、わざわざ口元まで抑えて、なんだかすごく照れてるみたいに見える。
首をかしげるのは俺の方だ。何か特別な言葉だったろうか?
「獄寺が約束してくれたのって、多分、初めて!!」
・・・・そうだったろうか?記憶にない、約束したことは。
山本が、約束を絶対に破らないのは知っているけど・・・・。
確定できないことを口にするのは、怖い。だから、しない。できない。
そう思ってたけれど、するりとそれは口にできた。
「わぁ、新年からすっげぇ嬉しいのな。来年もいっしょにいようってことだよな、それ。」
がばっと抱きしめられる。頬をすり寄せられる。猫と一緒か!?
力の加減を間違えたそれは、苦しくて、顔をしかめる。それとこれとは、違う理由で顔に熱が集まる。
自分の言ってしまったことが恥ずかしい。好きっていう以上・・・・かもしれない。これ。
今日から新しく365日が始まるってのに、それをすっ飛ばして、来年も一緒にいよう、だなんて。
意訳すれば明らかにそういうことだ。
来年の新年もいっしょにいるのは決定事項ってこと。
365日のその先まで一緒にいよう、なんて軽く眩暈がする。
・・・・まぁ、離れるなんていうのはその数倍以上信じられないけど。


「おい。野球馬鹿!遅れたけど、行くぞ。初詣!」
「え〜。来年でいいよ。来年の朝一でいい!朝一にしようぜ、暗いうちから行くの。
手つないで。で、どっか景色いいとこ昇って二人で朝焼け見ようぜ!んで、朝が明ける前に、キスすんのな。」
ぱすっ。
考える前に手が動く。山本の頭を殴る。えぇ〜!!と、声があげるが、そんな抗議は聞かない。
「や、行くったらいく!お前いかないなら俺だけでも行く!」
うるさい!うるさい!声を張り上げる。もうやけくそだ。
二人で山に登って云々のあたりをリアルに想像しちまったきまり悪さをごまかすように。
顔が赤いの気づかれないと、いいなと思いながら。


皮ジャンをはおるだけで、外に出る。一歩外に出た瞬間から風が冷たくて、首をすくめる。
階段を山本が駆け降りてくる音がする。
それに、口元を和らげる。
・・・・・手、ぐらいつないでやってもいいかも、な。
寒いし、手袋ないし。手、冷えるし。
まぁ、新年の初めの大サービス、だし。
いろんな理由を探してしまっているあたり今年も、相変わらずの一年になるかもしれないな。なんて漠然と思う。
・・・・でも、俺は、今の関係が気に入っている。
やっぱり、山本と一緒の時間は心地よすぎる。結論はこれだけ。
これだけで十分。

		
〜一応、新年。あけましておめでとうございます!何もない日常が一番好き(主に私が山獄的に)